●主催:IFNアートプロジェクト
●共催:文房堂ギャラリー
●後援:北日本新聞社
●助成:(財)
花王芸術・科学財団
◆アート・インスタレーション
<珪藻土、その生気の襞> 立体造形作家・伊藤公象
珪藻土(珪藻泥岩)の角材の表面
を手鉋でひと削りすると、1200万年を経た堆積記号のような多様な痕跡文様が見られる。その削り屑に少量
の水を混ぜ、パン作りのように捏ねて焼いた淡紅色の物体を透明なガラス容器の水に浸す。と、まるで生き物のように水を吸い込み、入れ変わるように永遠の時空を蓄えた泡立ちが、現世に無限の襞を放出する。
珪藻土の微粉は植物プランクトンの遺骸だからミクロの世界。微小なガラス細工の籠か蓋物のようで中は空、その塊は穴の凝集、つまり穴だらけの物質なのだ。ガラスの組成と同じシリカ(二酸化ケイ素)が主成分で、ダイナマイトの発明に寄与し、建築物の通
気性素材に活用され、白粉などの化粧品では美肌づくりに役立つ優しさ。破壊と美的創造の連鎖を持つ物質故に、有機体との類縁性を探るアートの思考上興味深いものがある。
削り続けた表面が無数の変化に富む表面を見せ続けることの繰り返し、珪藻土とそうした人為の交差からは、物質と生成の類推を透して、無限に生気の襞を生じさせるだろう。
◆サウンド・インスタレーション
<珪藻土の音響世界に分け入る> 作曲家・藤枝守
樹木のなかで吸い上げられる水の音。あるいは、海辺の砂のなかでゆっくりと移動する貝の音。このようなきわめて微小な(=micro)音は、われわれの知覚の領域を超えた存在だった。しかしながら、音のエネルギーを電気的に増幅する技術は、このような微小な音を聴きえる存在に転化していった。そして、微小な音のなかに、目でみることのできない世界を聴覚的につかみとっていったのである。
焼成した珪藻土の内部に織り込まれた無数な空洞。この複雑な珪藻土の内部の不可視の空間に、じつは、豊かな音響世界が内包されていたのである。このことに気づいたには、珪藻土の塊を水に沈めたときだった。その珪藻土の微小な空洞に水が染み込み、その内部の空気がはき出されることによって、微かな音が生まれる。まさに、「珪藻土の息づかい」の音だったのである。このような珪藻土がもつ微小な音をどのようにわれわれの耳に届けることができるのか。このプロセスそのものが、今回のサウンド・インスタレーションにつながった。
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