植物の「生の軌跡」から生まれた「植物文様」という音楽。その音楽は、クラヴィコードによって奏でられるとき「フラジャイルな響きのつづれ織り」に変容します。これまでに「クラヴィコードの植物文様」の公演は、東京をはじめ、福岡、金沢、富山、那須高原などを巡回してきました。今回の舞台は、ふたたび、福岡に戻り、住吉神社・能楽殿。床下に数個の甕(かめ)が設えてあるヒノキ舞台のうえで、クラヴィコードによる「フラジャイルな響き」は、しずかに共振していきます。
■クラヴィコードの植物文様・・・
バッハが愛用したといわれるクラヴィコード。この楽器から醸しだされる微かな音は、われわれの耳の襞の奥深くにそっとしのびこみ、そして、知らないうちに「聴く」という行為が研ぎ澄まされていきます。砂原悟の弾くクラヴィコードの微かな音のなかに、バッハの組曲が軽やかに躍動し、そして、藤枝守の《植物文様クラヴィコード曲集》が「フラジャイルな響きの綴れ織り」に変容します。
東京の自由学園明日館、福岡での赤煉瓦文学館にひきつづき、富山での「クラヴィコードの植物文様」の公演は、富山鹿島町教会が会場となります。ピンクの十字架のステンドグラスが美しいこの木造建造物のなかで、クラヴィコードの響きは、やさしくわれわれの耳をつつみこんでいきます。
■「植物文様シリーズ」とは、
《植物文様》という藤枝守の作曲シリーズは、植物研究家でありメディアアーティストの銅金裕司が考案した「プラントロン」という装置との出会いから生まれた。この装置から採取された植物の葉表面
の電位変化のデータに内包された音楽的な価値に着目しながら、MAXによるコンピュータ・プログラムによって、この電位
変化のデータをメロディックなパターンに読みかえるという手法が一貫して行われている。その手法は、「なにかをみいだす」という行為に集中した作曲の試みであり、また、ピタゴラス音律や純正調などのさまざまな音律によって《植物文様》というシリーズとして現在も展開している。
■クラヴィコードとは・・・
音律楽器であったモノコードに鍵盤機能がついたクラヴィコードは、17〜8世紀のヨーロッパ全土で広く愛用されたといわれている。誰かのために演奏されるのではなく、演奏の練習や作曲の手助けとして重宝がられていたという。タンジェント(金属片)が弦を突き上げるメカニズムによって、ピアノやチェンバロにはない独特の微妙な音のニュアンスが醸し出される。今回の公演で使用される楽器は、1780年代のドイツの楽器製作家フーベルトのクラヴィコードが原形として山野辺暁彦さんが製作したもので、ある同じ弦を異なる鍵盤で鳴らす共有弦タイプに属している。
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