福岡ガムラン・フェスティバル2022〜共鳴するガムラン
2022年11月29日〜12月4日
福岡アクロス円形ホール・福岡アジア美術館アートカフェ
「福岡の街にガムランを響かせる!」をモットーに、今年はじめて開催される「ガムラン・フェスティバル」。古来よりアジアからさまざまな文化が押し寄せてきた福岡という土地に、アジアを象徴するガムランの響きが一週間にわたって鳴り続けます。
今回、登場するガムランはインドネシア・スンダ(西ジャワ)の「ガムラン・ドゥグン」と呼ばれる楽器編成。ジャワやバリに比べるとひとまわりも、ふたまわりも小ぶりですが、ガムランのエッセンスがしっかりと凝縮されています。じつは、この「ドゥグン」のガムラン・セットが福岡には二つもあります。そして、この楽器編成による「パラグナhakata」、「LOU」、「Go On」という三つのガムラン・グループが演奏活動しているのです。今回、この三つのグループが一堂に集結し、独自にガムランを響かせていきます。
ガムランには、人と人とをつなげ、人と土地とを一体化させる不思議な力がそなわっています。それは、「叩く」というシンプルな行為から金属音が呼び出され、その金属音は響き合うなかに、身体の殻から抜けだし、すべてが浸透し合う世界が広がるのです。
「曼荼羅」、「コンチェルト」、「般若心経」、そして「共鳴」と結びつきながら展開する四つのガムラン公演をお楽しみください。(音楽監督:藤枝守)
■Part-1 劇場版「ガムラン曼荼羅」 (2回公演)
日時:11月29日(火) 開演15:00(開場14:30) / 開演19:00(開場18:30)
会場:アクロス福岡円形ホール
チケット:¥3,000(前売り¥2,500) ¥1,500 (配信)
円形舞台の中央にゴングを据えて、それぞれの楽器は、ゴングを取り囲むように円環的に配することによって、ガムランの曼荼羅が舞台に出来上がる。この舞台の上で演奏される《ガムラン曼荼羅》は8つの楽曲から構成された組曲で、2018年に初演された。今回は、円形ホールの舞台を最大限に活用したあらたな劇場版として初演される。
「曼荼羅」という中心をもったエネルギー体。そのなかでガムランから放出される響きが陰陽の秩序のなかで絡み合い、円環的な時間が生み出され、そのなかから「響きの回廊」が出現する。その回廊の淵にそって、両性的な性格を変容する舞がゆっくりと辿る。
【演目】
藤枝守:「ガムラン曼荼羅 I」〜劇場版初演 (2018-2022)
【出演】
ガムラン:パラグナhakata /舞踊:ボヴェ太郎
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■Part-2 ガムラン・コンチェルト
日時:12月1日(木) 開演19:00(開場18:30)
会場:アクロス福岡円形ホール
チケット:¥3,000(前売り¥2,500) ¥1,500 (配信)
「世界は音楽の丸い連続体であるかのようである」とルー・ハリソンは語り、そして「音楽は複合的で、さまざまな価値を集めたハイブリッドなもの」と続ける。ホルンとビオラをソリストとした《ガムランのための三つの小品》は、ハリソンのハイブリッドの思考を具現化した「超民族的」な作品。そのハイブリッドな方向に触発された藤枝守のガムランをともなうコンチェルト形式の三つの作品を紹介。リュートやハープ、バイオリンといったソロ楽器がガムランによる響きの文様を綾取っていく。そして、砂原悟をソリストに迎えて初演される《ピアノ・コンチェルト》では、1948年に河合楽器が製作したミニピアノが登場。そのミニピアノがもつ単弦の響きがガムランに絡み合う。
【演目】
ルー・ハリソン:ソリストをともなうガムランのための三つの小品 (1978-79)
1.マイン・ブルサマサマ
2.カロルス・チャベスによせる哀歌
3.ベティ・フリーマンとフランコ・アセットのためのセレナーデ
藤枝守:ガムランをともなう「コンチェルト」(2018)
藤枝守:ガムランをともなう「ダブル・コンチェルト」(2020)
藤枝守:ガムランをともなう「ピアノ・コンチェルト」(2022,新作初演)
【出演】
ガムラン:パラグナhakata
ホルン:古川勇太
ビオラ:友松愛
リュート:太田耕平
バイオリン:松岡祐美
ハープ:中村理恵
ミニピアノ:砂原悟
■ミニピアノ・・・
明治期に始まった日本のピアノ作りは、時代のニーズとともに順調に成長していたが、第二次世界大戦によって中断を余儀なくされる。戦後、河合楽器製作所は資材不足から小さなサイズのピアノの製作に取りかかる。わずか数年のあいだだけ作られていたこのミニピアノは、現代においては忘れ去られた楽器といってよい。しかしながらこの楽器、少ない資材から作られたとは言え、本物のピアノ作りを目指したと思われる。アクションやデザインのオリジナリティ、また現代の楽器では得られない独特の「音」を備えている。単弦(通常は3本)であることが、もっとも大きな特徴である。そのシンプルな音色は、古代のハープやリュートにも似て美しい。
使用予定のミニピアノは、No.101という型番をもった河合楽器の1948年製のもので、縦横のサイズは約90センチ、鍵盤数51(F-g2)。
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■Part-3 ガムランの般若心経
日時:12月2日(金) 開演19:00(開場18:30)
会場:アクロス福岡円形ホール
チケット:¥3,000(前売り¥2,500) ¥1,500 (配信)
詩人の伊藤比呂美さんが10年ほど前に般若心経を現代語に訳出したが、その散文的なテキストにもとにした《歌づけ般若心経》は、これまでにさまざまな楽器編成で歌われてきた。そのなかでも、ガムラン版《歌づけ般若心経》は、わかりやすい言葉のひとつひとつがゴングなどの金属音の響きと混じり合い、その意味が鮮明に浮かび上がる。今回の公演では、《歌づけ般若心経》のまえに天台宗の末廣正栄さんによる般若心経の読経とともに《歌づけ般若心経》の原曲になった《植物文様第21集-B》が弦楽三重奏によって演奏される。また、前半では、台湾大学の実験農場の茶樹から採取された電位変化データに基づく《台湾茶の植物文様 I》や《オリーブのラウンド》のガムラン版も演奏される。
【演目】
ガムラン・ドゥグン古典曲
藤枝守:ガムラン版「植物文様第27集:台湾茶の植物文様」 (2018)
ガムラン版「オリーブのラウンド」(2008-15)
般若心経 読経
藤枝守:植物文様第21集「pattern B」〜弦楽三重奏版 (2010)
ガムラン版《歌づけ般若心経》(2012)
【出演】
ガムラン:パラグナhakata
読経:末廣正栄(天台宗)
歌唱:松石恭子
バイオリン:松岡祐美
ビオラ:友松愛
チェロ:宇野健太
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■Part-4 共鳴するガムラン
日時:12月4日(日) 開演14:00(開場13:30)
会場:福岡アジア美術館アートカフェ
チケット:¥1,500(1ドリンク付き)※小学生以下無料(要ドリンク代) ¥1,000 (配信)
フェスティバルの最終日は、アジア美術館アートカフェに舞台を移し、福岡で活動する三つのグループによってガムランの響きが共鳴するプログラムによってフィナーレを飾る。「パラグナhakata」によるスンダ(西ジャワ)のガムラン古典曲から始まり、ルー・ハリソンの代表作《La Koro Sutro》が「LOU」によって演奏される。エスペラント語によるこのハリソンの「般若心経」は、もともとはアメリカン・ガムランによるものだったが、松村由佳によって「ドゥグン」に編曲され、合唱や廃材楽器も加わる40分ほどの大曲。さらに、長年ガムランを音楽実践の活動に取り入れてきた社会福祉法人「明日へ向かって」に所属する「Go On」によって協同作品「華」も披露される。
ガムランによって多くの人たちが出会い、そして、つながりの輪がひろがる。さまざまに打ち鳴らされ、共鳴するガムランがアートカフェ全体を響きの渦に変容させていく。
【演目】
ガムラン・ドゥグン古典曲
ルー・ハリソン:La Koro Sutro〜般若心経 (1973) 松村由佳 編曲
藤枝守:ガムラン・エチュード「虹がみえたよ」 (2019)
Go On協同作品:華 (2021)
【出演】
ガムラン:ガムラングループ「Go On」
福岡ガムラン倶楽部「LOU」
パラグナhakata
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★ガムラン・ドゥグンについて 森重行敏
インドネシアは無数の島々からなり、それぞれ異なる言語や音楽文化を持つ多民族国家である。ガムランは金属製打楽器のアンサンブルで、ジャワが古くから中心地であったが、西ジャワ(スンダ)には中部ジャワのような強力な王宮が成立しなかったため、さまざまな小編成ガムランが存在する。ドゥグンはスンダの貴族階級に伝えられた儀礼用のもので、本来は舞踊や芝居には用いなかったが、戦後再整備されるとともに、新作も作られるようになった。元は器楽であったが、現在では歌曲も多く作られている。東隣のバリ島でも本来の大掛かりなガムランとは別に、ドゥグンがレストランなどのBGMとしてしばしば流されている。
ドゥグンの音階はいわゆる沖縄音階に類似した五音音階で、ガムランでペロッグ音階と呼ばれるものの一種である。ところで、スンダの歌には日本の箏や三味線にも似た音階もあり、ドゥグンの五音音階の中の一音を取り替えることにより、この音階(マドゥンダまたはソロッグ)を演奏することもできる。さらにあと一音追加すれば合計七音音階となって、事実上の西洋音階も演奏できることとなる。ただしガムランの音階は金属楽器の特質として洋楽のような精密な音律ではなく、敢えてバラツキのある音律によって生み出される「うなり」の存在も欠かせない。今回、福岡と東京で活動するグループによって、ドゥグンのさまざまな可能性が提示されることにより、民族や伝統の壁を乗り超えた、新たな表現が期待される。
■藤枝守「植物文様シリーズ」とは、
《植物文様》という藤枝守の作曲シリーズは、植物研究家でありメディアアーティストの銅金裕司が考案した「プラントロン」という装置との出会いから生まれた。この装置から採取された植物の葉表面
の電位変化のデータに内包された音楽的な価値に着目しながら、MAXによるコンピュータ・プログラムによって、この電位
変化のデータをメロディックなパターンに読みかえるという手法が一貫して行われている。その手法は、「なにかをみいだす」という行為に集中した作曲の試みであり、また、ピタゴラス音律や純正調などのさまざまな音律によって《植物文様》というシリーズとして現在も展開している。 |